1998年 エルニーニョの午後 完結編
- 2013.04.30 Tuesday
- 10:16
その交差点を超えなければ、スーザンの家には帰れない。
しかし、不可能。迎えの時間は迫っていた。
立ち往生を余儀なくされ、不安は頂点に達し、
私は、とりあえず夫に電話をすることにした。
その日、夫は、トーランスに出掛けることになっていた。
トーランスは アーバインからロサンジェルスに向かって
フリーウェーで40分ほど北にある町。
こんな日に出掛けていたら大変なことになる、と思ったからである。
しかし、「この大雨のため出掛けるのは、止めにした」
と聞いて一安心。
もう一つの用件は、動けない私を迎えにきてもらう事と、
私に代って娘の迎えを頼む事だった。
しかし、けんもほろろに断られた。
この様子では、オフィスから出ても渋滞でにっちもさっちも行かない、
というのである。
まったくいつの時も 知らん振り。血も涙もないやつ!(怒)
どうしよう?
スーザンは、歩いて帰るという。
雨は、運良く小降りになってきた。(ほとんど止んだ)
私は、とにかく水がひくのを待つつもりでいた。
しかし、スーザンは、
「私一人こんなところにおいて置けない。一緒に歩こう」
と言う。
娘の迎えの時間もあるし、気がきではなかったが、
いつ動けるか分からないのにこんな所にいるのも不安で
車を捨てて、スーザンについて行くことにする。
車では移動するが、歩く事など皆無といっていいここの生活。
とぼとぼと歩道を歩き始める。すぐにフリーウェーの上を通る。
フリーウェーは、大渋滞。パーキング場と化している。
こんな事でもなければ歩く事などないし、
ましてやこんな所からフリーウェーを覗く事もないと思うと、
その眺めも意外とおもしろかった。
30分以上歩いてやっとスーザンの息子の通っている小学校に着いた。
そこでも父兄がいつも通りに迎えに来られないらしく
なにか物々しい雰囲気。
娘の迎えは絶望的と諦めた私は、学校に連絡をしようと考えた。
その小学校の職員室で電話を借り、娘の学校に電話。
「これこれの次第で迎えに行けない。娘に伝言を」
と、頼んだが
「この状況であなたの娘にそれを伝える事はできない」
と、断られた。
困った事になった。
スーザンは、無事息子を引き取る事ができた。
運良く、彼女の友人が、スーザンの家まで車で送ってくれる事になった。
もちろん私も一緒にである。
親切にも、その友人は見ず知らずの私のために、
スーザンの家に行く前に、私の車がどうなっているか
見に行ってくれると言う。
そこで、恐る恐るさっき歩いて来た道を、今度は車で戻った。
雨は止んで、青空も見える。辺りはすっかり明るい。
車の混み具合もさほどではない。
歩いて30分以上かかったというのに、車なら数分だった。
その交差点には依然として、数台の車が沈んだままだった。
が、水嵩はぐんと減っていた。
この分なら車で逆方向(我が家の方角)には戻れるとふんで、
彼らにお礼を言って、その友人の車を降りた。
交差点には、消防車が来ていた。排水作業をしていたのかもしれない。
注)交差点の部分だけが窪んで大きな池になっているので
少し離れると道路を渡れた。
自分の車に戻った私は、ふーっと大きな息をついた。
やっと自分らしくなった、と思った。
わが愛車は、さながら私の分身である。
オーバーに聞こえるかもしれないが、それほど車は生活必需品なのだ。
少し遅れたが、娘の迎えにも行ける。
小一時間前スーザンと祈りながら走った道路からは
すっかり水がひいていた。
途中、反対方向からの車をお巡りさんが出動して通行止めにしていた。
交差点は、依然として大きな大きな水溜りだから、通り抜けできない。
道路の脇は、あちこちゴミだらけ。
一時的にしろ浸水状態だったから、流されてきたゴミが山になっている。
わが娘の学校の前も洪水がひいた後のようだった。
娘曰く、「学校中が床上浸水して、靴は水でガボガボ。
アメリカ人の子達(彼らは、高校生)は、
雨の中ずぶ濡れで、はしゃぎまわっていた」とか。
さすが、雨の少ないカリフォルニア。雨は、珍しい。
したがって、カリフォルニアンは雨が好きらしい。
アメリカの住宅は、床と土間の高さが同じである。
降雨量10センチともなれば床上10センチの洪水となる。
こんなわけで、劇的な体験をした私とスーザンであった。
大々的にテレビでに取り上げられるはずと思ったけど
なんとこの大雨、超局所的なものだったらしい。
地方のテレビ局のニュースにはなったかもしれないが、
大きなテレビ番組のニュースには、影も形も出てこなかった。
(残念!)
〜〜〜〜〜〜〜
今ならさしずめユーチューブなんだけどねえ。
このお話のその1、その2はここから↓
エルニーニョの午後 その1↓
http://americajijo.jugem.jp/?eid=801
エルニーニョの午後 その2↓